あとがき
私が住宅産業に携わって、強く感じたことがあります。
それは「お客さまは建築のことが分からないのでは・・・?」ということです。
わからないと、わかりやすいところでしか判断をすることができません。
わかりやすいところ、それは「値段」と「見栄え」です。
そこに売り手側から多くの罠が仕掛けられます。
まず「値段」。
値段は坪単価で表されますが、坪単価にどこまで入っているのでしょうか?
坪単価を出すための分母となる面積は、「床面積」なのか「建築面積」なのか「施工面積」なのか、初めて家造りを計画される方はその違いもわからず、一坪25万いくら、といった金額に飛びつきます。
同じ値段で見栄えをよくすれば、見えないところはそれなりに造る・・・。
これは住宅産業が慈善事業で無い限り仕方ありません。
豪華なモデル住宅、豪華なカタログ、そしてテレビのコマーシャルも、お客さまに誤解、もしくは錯覚をしてもらうために造られている部分がたくさんあるように思います。
住宅は高価なため、少しでも安く造りたいと思うのは仕方のないことですが、あまりに多くのものを求めすぎると、誤解と錯覚の罠にはまりがちです。
「お客さまは神さまです!消費者は王様です!」とおだてられます。
しかし、王様は王様でもたぶんアンデルセン童話に出てくるはだかの王様です。
本当のことは知らされていないのです。
いつの時代からかおだてられることに慣れ、本当のことが見えなくなっているのだと思います。
住宅の本質は「住みごこち」です。
健康で快適で高耐久が最優先されるべきだと私は信じています。
家族を守り、子どもを育てる場所です。
見栄や虚栄で造るものではないと思います。
そんな家を造るには「お客さま」ではなく本当の「施主(せしゅ)」になる必要があります。
施主とは主となって施工する人です。
信頼できる工務店を見つけ出して、自分の住みたい家を明確に伝え、プロフェッショナルの技や知識を引き出す役割です。
工務店と同じ方向を向いて、一緒に家造りをする人のことです。
信頼関係が無ければ、造り手も本当のアドバイスは出来ません。
裸の王様に「あなたは裸です」と本当のことを言うのは難しいのです。
工務店は「あなたは正しい、だけどこんなのはどうですか?」と恐る恐る伝えるのが精一杯です。
駆引きの上手な、建築を知らない営業マンなら「あなたの夢を実現しましょう!」と、もみ手と笑顔で対応はしてくれますが、もともと家造りにプライドを持っているとは私にはとても思えません。
「何棟受注するか」が営業マンの仕事だからです。
それに家造りが分かったら受注できなくなるとさえ言われています。
友人の知り合いの某ハウスメーカー営業マンが言っていたそうです。
「知り合いと自分の地元には売れない」と。
駆引きで家造りをすれば、駆引きの上手な営業マンの餌食になるだけです。
わが社の社員にはプロとしての自覚とプライドを持って、これからも仕事に励んで欲しいと思っています。
家造りは幸せ造りといいます。
たくさん学んでおいてください。
綱領をもう一度読み返して欲しい「だれでも よい家に 住みたいと願うわたしは知識を積み 知恵を磨き これに奉仕する」
「われわれ」でなく「ひとりひとりの私」が学び、考えることを望んでいます。
地元から逃げも隠れも出来ません。絶対にウソは言わないこと。
良い家はたくさんあります。
良い家とはどんな家なのか、一生懸命考えてください。
社訓は 「一隅を照らす者になれ」 です。
小さくても良いから、社会の役に立つ灯りとなって欲しいと思っています。
還暦を迎え、会社の最前線を退く前に私の思いを記しておきます。
私の意志を継ぐものが、連綿と続くことを祈っている。
株式会社 プランサーバー
代表取締役 村上 篤博